真のエレガンス、精神としてのオートクチュール。ファッション界を牽引し、数々の輝かしい名声を確立してきたディオールが2022年にデビューコレクションから75周年を迎えた。1946年にオートクチュールメゾンとして設立され、1947年春夏コレクションで発表した「ニュールック」は一世を風靡し、瞬く間にその名を世間に知らしめるきっかけとなった。ニュールックで打ち出されたのは絞られたウエスト、丸みを帯びたショルダーライン、踊るように揺れる長いスカート。この革新的なプロポーションは第二次世界大戦の余波で窮屈なスタイルを強いられていた女性たちに装う楽しさをもたらすことになる。そして惜しみなく布地をたっぷりと使ったデザインは、繊維産業の復興にも貢献することとなった。
こうしてディオールが生み出したファッションは次々と成功を収め、モードの中心地としてパリに再びスポットライトを当てるという大きな功績を残すことになる。女性の美しさ、そして在り方に対して真摯に向き合い、そのイメージを今までにない新しいアイデアで具現化するという画期的なスタイルは、創始者のクリスチャン・ディオールによって形作られた。その哲学はイヴ・サンローランからマルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレ、ジョン・ガリアーノ、ラフ・シモンズ、そして現クリエイティブ ディレクターのマリア・グラツィア・キウリに至るまで個性と才能に満ちあふれた優秀な後継者たちへと受け継がれ、長い歴史のなかで育まれている。
そんな華麗なるメゾンのコードを紐解く「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展が東京都現代美術館で開催されることになった。2017年にパリでスタートし、その後ロンドン、上海、成都、ニューヨーク、ドーハなど世界を巡回してきた回顧展が満を持しての日本上陸となる。
会場には「ニュールック」の象徴である「バー」スーツをはじめ、過去から今日に至るまで厳選された300点以上のオートクチュールのドレス、歴代のデザイナーを象徴するシンボリックなウェア、多彩なアクセサリー、アイコンバッグやフレグランスなどメゾンの歴史を彩るさまざまなアイテムが一堂に揃う。またこの度初公開となるメゾンの貴重なアーカイブ資料に加え、写真家・高木由利子による撮り下ろし写真などの特別作品も同時に展示。ディオールに息づく信念や創造性をさまざまな角度から感じられる未だかつてない壮大な規模の展示となる。
日本での開催にあたり、セノグラフィーは国際的な建築事務所OMAのパートナーとして知られる建築家、重松象平が担当し、日本文化へのオマージュとしてデザインした演出が新たに加わった。そしてキュレーションにフランスのファッション史家フロランス・ミュラーを迎え、ディオールと日本の結びつきや深い関係性をフォーカスした特別な内容へと再考案された点も大きな見どころのひとつ。
ディオールの庭園に対する愛、コスチュームやパーティーへの情熱などはよく知られているが、初期のコレクションから大きな影響を与えていたという日本の文化もメゾンを語るうえで欠かせない重要なキーワードとなっている。幼少期から日本に憧れを抱いていたというディオール。着物のように身体をすっぽりと包むドレスや、帯のような幅広のサッシュベルトなど日本の伝統的な衣装文化からインスピレーションを得て生み出されたアイテムの数々は、今なお人々を魅了し、インスピレーションを与える存在だ。
ディオールがデザインし、彼の死後にイヴ・サンローランがその遺志を受け継いで完成させたローブデコルテを上皇后陛下美智子さまが1959年の成婚の際に纏ったこと、その生地には龍村美術織物が製作した京都西陣織の明輝瑞鳥錦が用いられ、ヨーロッパと日本の交流を繋ぐ架け橋のひとつになったというエピソードからも両者の絆や揺るぎない友情がうかがえる。
そしてディオールの精神が今なお生き続けているのは、クチュリエがこの世を去った1957年以降その遺志を引き継いだクリエイティブ ディレクターたちの活躍があってこそ。この回顧展ではその後継者たちにも同時にスポットを当てている。
展覧会では、ディオールのドレスとともに絵画や彫刻をはじめ、布地や陶器など生活を美しく彩るものを配置することであらゆるものとの結びつきが可視化されているが、後継者たちがメゾンの精神に刻み込んだ新しいテーマのひとつひとつも同じようにアートや多彩なカラーやテクスチャー、パリのエスプリあふれるエレガンスや異国への憧れ、新古典主義様式の装飾などさまざまなモチーフやキーワードによって表現され、その世界観を映し出している。ディオールの突然の死により若くしてその地位を手にしたイヴ・サンローランは、幾何学的なラインを追求。究極のモダニストとして知られる熟練のマルク・ボアン。対比や構築的なフォルムに注視したジャンフランコ・フェレに、ドラマティックな感性で独自の美意識を打ち出したジョン・ガリアーノ。そしてミニマルな視点から新時代のエレガンスを体現したラフ・シモンズに、女性ならではの視点で革新をもたらしたマリア・グラツィア・キウリ。さまざまなルーツや異なる美意識を持つ彼らの個性を改めて深く知る素晴らしい機会になるはずだ。
長年建築家になることを夢見ていたディオールにとって、シルエットはシーズンごとに女性らしさやエレガンスを表現するための最も効果的な手段のひとつであった。コレクションごとにプロポーションを変え、常に女性の優雅さを賛美するラインを再定義し続けてきた。この刷新し続ける伝統はしっかりと受け継がれ、現代のコレクションにも反映されている。こうして過去の遺産を受け継ぎながら新しい表現を加えることによって、その時代の女性の美しさの在り方を追求する歴代のクリエイティブ ディレクターたちの情熱は創業者のヴィジョンを永続させ、新しいディオールの魅力を再発見させてくれる。だからこそディオールのクリエイションは、個性的かつ先駆的でありながらも、常に永遠のエレガンスがあり、進化し続けているのだ。
Hair: Olivier Schawalder at Bryant Artists Makeup: Mayumi Oda at Bryant Artists Manicure: Nafissa Djabi at Marie France Choreography: Ryan Chappell Casting: Rosie Vogel Set Design: Mila Taylor Young at CLM Production: 360PM Models: Ana Ros, Chloe Oh, Debra Shaw, Lucy Rosiek, Lulu Wood, Maryel Uchida, Mary Ukech, Taira Text: Asa Takeuchi Editor: Yui Sugiyama All looks from the Dior Heritage Collection