FASHION / TREND & STORY

モード界に革命をもたらしたディオールの7名の寵児たち

時を経て輝き続けるディオール(DIOR)の美学。歴代7人のクリエイティブ ディレクターによる珠玉のオートクチュールのエレガンスを、多様な個性を持つモデルたちが着こなす。

クリスチャン・ディオールによる1947年春夏コレクションの「コロール(花冠)」ラインの「バー(Bar)」スーツ グローブ/ともにDIOR HAUTE COUTURE(クリスチャン ディオール)

真のエレガンス、精神としてのオートクチュール。ファッション界を牽引し、数々の輝かしい名声を確立してきたディオールが2022年にデビューコレクションから75周年を迎えた。1946年にオートクチュールメゾンとして設立され、1947年春夏コレクションで発表した「ニュールック」は一世を風靡し、瞬く間にその名を世間に知らしめるきっかけとなった。ニュールックで打ち出されたのは絞られたウエスト、丸みを帯びたショルダーライン、踊るように揺れる長いスカート。この革新的なプロポーションは第二次世界大戦の余波で窮屈なスタイルを強いられていた女性たちに装う楽しさをもたらすことになる。そして惜しみなく布地をたっぷりと使ったデザインは、繊維産業の復興にも貢献することとなった。

マニッシュの新解釈 創業当初から紳士服のディテールをいち早く女性の服に取り入れ、新時代のエレガンスを切り拓いたディオール。その代表格である千鳥格子はメゾンのアイコニックな存在として知られる。クリスチャン・ディオールによる1948年春夏の「アンヴォル」ラインの千鳥格子柄のジャケット スカート ハット グローブ/すべてDIOR HAUTE COUTURE(クリスチャン ディオール)

こうしてディオールが生み出したファッションは次々と成功を収め、モードの中心地としてパリに再びスポットライトを当てるという大きな功績を残すことになる。女性の美しさ、そして在り方に対して真摯に向き合い、そのイメージを今までにない新しいアイデアで具現化するという画期的なスタイルは、創始者のクリスチャン・ディオールによって形作られた。その哲学はイヴ・サンローランからマルク・ボアン、ジャンフランコ・フェレジョン・ガリアーノラフ・シモンズ、そして現クリエイティブ ディレクターのマリア・グラツィア・キウリに至るまで個性と才能に満ちあふれた優秀な後継者たちへと受け継がれ、長い歴史のなかで育まれている。

軽やかなトラペーズ・ライン ムッシュ ディオールが重視していた幾何学的なラインからインスピレーションを得て、彼の後を継いだイヴ・サンローランが生み出したもの。裾を短くした小粋なデザインはファッション界に大きなインパクトを与えた。イヴ・サンローランによる1958年春夏の「トラぺーズ(台形)」ラインのコート/DIOR HAUTE COUTURE(クリスチャン ディオール)

そんな華麗なるメゾンのコードを紐解く「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展が東京都現代美術館で開催されることになった。2017年にパリでスタートし、その後ロンドン上海、成都、ニューヨーク、ドーハなど世界を巡回してきた回顧展が満を持しての日本上陸となる。

時代を映し出すモダニティ タイムレスな上品さを大切にしつつ、女性を美しく見せる新しいプロポーションを次々と生み出したディオール。コンテンポラリーなムードのドレスは女性の体を美しく見せる曲線がポイント。イヴ・サンローランによる1960年春夏の「ドゥマン(明日)」ラインのアフタヌーンドレス ハット シューズ/すべてDIOR HAUTE COUTURE(クリスチャン ディオール)

会場には「ニュールック」の象徴である「バー」スーツをはじめ、過去から今日に至るまで厳選された300点以上のオートクチュールのドレス、歴代のデザイナーを象徴するシンボリックなウェア、多彩なアクセサリー、アイコンバッグやフレグランスなどメゾンの歴史を彩るさまざまなアイテムが一堂に揃う。またこの度初公開となるメゾンの貴重なアーカイブ資料に加え、写真家・高木由利子による撮り下ろし写真などの特別作品も同時に展示。ディオールに息づく信念や創造性をさまざまな角度から感じられる未だかつてない壮大な規模の展示となる。

ラグジュアリーな斬新さ イヴ・サンローランの退任後、約30年にわたってディオールを率いたマルク・ボアン。彼が生み出したのは、ヨーロッパのみならずアメリカでも注目を集めたIラインシルエットのスリム・ルック。ヴェルサイユ宮殿の壮麗さに象徴されるゴールドとの華麗なるコンビネーションだ。マルク・ボアンによる1965年頃のストラップレスラメドレス シューズ/ともにDIOR HAUTE COUTURE(クリスチャン ディオール)

日本での開催にあたり、セノグラフィーは国際的な建築事務所OMAのパートナーとして知られる建築家、重松象平が担当し、日本文化へのオマージュとしてデザインした演出が新たに加わった。そしてキュレーションにフランスのファッション史家フロランス・ミュラーを迎え、ディオールと日本の結びつきや深い関係性をフォーカスした特別な内容へと再考案された点も大きな見どころのひとつ。

香り立つような優美なシルエット ドラマティックで芸術品のように美しいドレスはメゾンの精神そのもの。ディオールが生涯愛した花々はインスピレーションの源流としてさまざまなクリエイションを華やかに彩ってきた。ボアンの後に就任したジャンフランコ・フェレは軽やかさと構築的なシルエットを見事に融合させた。ジャンフランコ・フェレによる1992年春夏のシルクオーガンザドレス シューズ イヤリング ブレスレット/すべてDIOR HAUTE COUTURE(クリスチャン ディオール)

ディオールの庭園に対する愛、コスチュームやパーティーへの情熱などはよく知られているが、初期のコレクションから大きな影響を与えていたという日本の文化もメゾンを語るうえで欠かせない重要なキーワードとなっている。幼少期から日本に憧れを抱いていたというディオール。着物のように身体をすっぽりと包むドレスや、帯のような幅広のサッシュベルトなど日本の伝統的な衣装文化からインスピレーションを得て生み出されたアイテムの数々は、今なお人々を魅了し、インスピレーションを与える存在だ。

エレガンスに潜む大胆な遊び心 ビッグモチーフやボリュームあるフォルムなど、対照的な要素を取り入れた構築的シルエットのドレスが現代女性を強くしなやかに彩る。固定観念にとらわれない新しいエレガンスの形がここに。ジャンフランコ・フェレによる1989年秋冬のリボンモチーフをあしらったウールクレープのドレス イヤリング シューズ/すべてDIOR HAUTE COUTURE(クリスチャン ディオール)

ディオールがデザインし、彼の死後にイヴ・サンローランがその遺志を受け継いで完成させたローブデコルテを上皇后陛下美智子さまが1959年の成婚の際に纏ったこと、その生地には龍村美術織物が製作した京都西陣織の明輝瑞鳥錦が用いられ、ヨーロッパと日本の交流を繋ぐ架け橋のひとつになったというエピソードからも両者の絆や揺るぎない友情がうかがえる。

オリエンタルなムードに誘われて ディオールの創造性に大きな影響を与えた東洋文化。なかでも伝統的な日本の衣類から導き出されたアイコニックなピースの数々は、時代を超えてメゾンの多様で多彩な魅力をアピールする。〈左〉ジョン・ガリアーノによる2007年春夏のウールクレープドレス、刺繍入りシルクタフタコート「チー - シー - サン(CEE-SHI-SAN)」 シューズ 〈中〉シルクジャケットとスカート「コ - コ - サン(KO-KO-SAN)」 シューズ ヘッドピース 〈右〉鯉の刺繍入りイヴニングドレス「コウジ - サン(KOJI-SAN)」/すべてDIOR HAUTE COUTURE(クリスチャン ディオール)

そしてディオールの精神が今なお生き続けているのは、クチュリエがこの世を去った1957年以降その遺志を引き継いだクリエイティブ ディレクターたちの活躍があってこそ。この回顧展ではその後継者たちにも同時にスポットを当てている。

ミニマルに宿るフェミニニティ 過去に回帰するだけではなく、新しいエッセンスを加えることで進化を遂げてきたディオール。さまざまな国や文化に着想を得て、ミニマルな主張を取り入れた新しいバランスの着こなしから新時代のエレガンスを感じ取って。ラフ・シモンズによる2013年秋冬の、帯にインスパイアされたベルトディテール付きジャケット スカート グローブ/すべてDIOR HAUTE COUTURE(クリスチャン ディオール)

展覧会では、ディオールのドレスとともに絵画や彫刻をはじめ、布地や陶器など生活を美しく彩るものを配置することであらゆるものとの結びつきが可視化されているが、後継者たちがメゾンの精神に刻み込んだ新しいテーマのひとつひとつも同じようにアートや多彩なカラーやテクスチャー、パリのエスプリあふれるエレガンスや異国への憧れ、新古典主義様式の装飾などさまざまなモチーフやキーワードによって表現され、その世界観を映し出している。ディオールの突然の死により若くしてその地位を手にしたイヴ・サンローランは、幾何学的なラインを追求。究極のモダニストとして知られる熟練のマルク・ボアン。対比や構築的なフォルムに注視したジャンフランコ・フェレに、ドラマティックな感性で独自の美意識を打ち出したジョン・ガリアーノ。そしてミニマルな視点から新時代のエレガンスを体現したラフ・シモンズに、女性ならではの視点で革新をもたらしたマリア・グラツィア・キウリ。さまざまなルーツや異なる美意識を持つ彼らの個性を改めて深く知る素晴らしい機会になるはずだ。

伝統と革新の融合 メゾンの長い歴史で初となる女性クリエイティブディレクター、マリア・グラツィア・キウリが示すのは現代女性の在り方。フェミニズムを反映した新しい視点でディオールのエレガンスを軽やかに描き出した。〈左〉2017年春夏のサンレイプリーツをかけたシルクオーガンザの「バー(Bar)」ジャケット キュロットスカート シューズ 〈中〉シルクにラメをあしらい、全体的にドレープを施した2021年春夏のドレス「エトワール」 〈右〉2017年春夏の日本で発表された「ジャルダン ジャポネ(日本庭園)」シリーズの一体。ラフィアに桜の刺繍をあしらったビスチェドレス チョーカー/すべてDIOR HAUTE COUTURE(クリスチャン ディオール)

長年建築家になることを夢見ていたディオールにとって、シルエットはシーズンごとに女性らしさやエレガンスを表現するための最も効果的な手段のひとつであった。コレクションごとにプロポーションを変え、常に女性の優雅さを賛美するラインを再定義し続けてきた。この刷新し続ける伝統はしっかりと受け継がれ、現代のコレクションにも反映されている。こうして過去の遺産を受け継ぎながら新しい表現を加えることによって、その時代の女性の美しさの在り方を追求する歴代のクリエイティブ ディレクターたちの情熱は創業者のヴィジョンを永続させ、新しいディオールの魅力を再発見させてくれる。だからこそディオールのクリエイションは、個性的かつ先駆的でありながらも、常に永遠のエレガンスがあり、進化し続けているのだ。

Hair: Olivier Schawalder at Bryant Artists Makeup: Mayumi Oda at Bryant Artists Manicure: Nafissa Djabi at Marie France Choreography: Ryan Chappell Casting: Rosie Vogel Set Design: Mila Taylor Young at CLM Production: 360PM Models: Ana Ros, Chloe Oh, Debra Shaw, Lucy Rosiek, Lulu Wood, Maryel Uchida, Mary Ukech, Taira Text: Asa Takeuchi Editor: Yui Sugiyama All looks from the Dior Heritage Collection